乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

舟を編む
三浦 しをん
光文社
2011-09-17



◆第9回(2012年)本屋大賞受賞



もう読み終わってからだいぶ経つんですが、書こう書こうと思ってるうちに今に至ってしまいました。

だいぶ話題になっていたので一度は読みたかった三浦しをんさんの「舟を編む」です。

 


 

 

おもしろかったです。

想像以上にライトめな読感で、すらっとさくっと読めました。

以下ざっくりした感想です。

 

 

◆編むもの=言葉の海を渡るための舟



最初は「漁師さんの話」かと思ってました。アホかわたし…


辞書作りに情熱をかける男たちのお話。

辞書を作るという限りなく地味で果てしない作業にスポットを当て、魅力的なキャラクターで話をじょうずに引っ張って行ってくれます。


もっと文学クサイものを想像していたのですが、全然ライトです。

軽快で楽しく勢いに乗って読めます。

キャラの立ち過ぎ感は否めませんが、文体とはぴったりくるので違和感はありません。

 

 

作り上げようと何年も何十年も取っ組み合う辞書の名前は「大辞林」や「広辞苑」のような「大渡海」。

なるほどだから「舟を編む」。

そして主人公はクソ真面目な馬締。

もうこの設定だけでご飯3杯イケます。技あり一本。

 


◆言葉の難しさ面白さを再認識


 

これを読んでいる間「辞書を作る」ことについてずいぶん考えていました。

本文中にも幾度となく出てきますが、簡単な言葉ほど説明するのが難しいですよね。


定番のものだと「右」をどうやって説明しますか?


「左」の反対?お箸を持つ方?北に向かって東側?南に向かって西側?


どれが正解とかではなく、伝えようとする側が「読む側がどう思うか」を常に想像しながら作り上げていくのって、ほんとに途方に暮れるくらい大変ですよね。

最高に面白い仕事だけど、最高に大変です。



自分の持ってる「言葉のイメージ」は必ずしも他人が持ってるそれとは一致しない、ってことと、それを擦り合わせる作業がどれほど大変か、ってことを改めて感じさせてくれる本でした。



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◆第5回(2008年) 本屋大賞受賞


本屋大賞受賞作、伊坂幸太郎著。


実にすばらしかった。手放しで絶賛です。プロの作家はすごいですね!

その筆にはお金を払ってもいいと思わせるだけのたしかな技術力があります。


わけてもこの「ゴールデンスランバー」は荒唐無稽で無理のありすぎる話の展開に、卑屈になるでも強引に押し切るでもなく自然と読者を巻き込んでいく包容力があります。


硬質な印象の筆と、乱暴なまでに思えるストーリー展開に、丁寧に作り込まれた真実を織り交ぜることでみごとな世界のバランスを築き上げています。



◆展開は無茶なのに、なんかやたらリアリティ



話自体はかなりムチャクチャです。

想像力を目いっぱい働かせても追いつかないくらい、どこまでもファンタジーな設定。

それなのに、伊坂氏の筆にかかるとなぜこんなにリアルさが増すのでしょう?


まるで「実録!凶悪犯に仕立てられた男の逃亡の日々!」を参考にして書かれたノンフィクション作品のようにさえ感じられてしまいます(注:そんな本ありません)。



「筋書きに無理があっても作者の筆力で引っ張って行ってくれる」作品の代表作みたいです。

ページをめくる手が止まりませんでした。



◆伏線づくし。どこまで仕掛けるの!?



雛形が出来ていて、まさに文字通り縦横無尽に張り巡らした伏線を見事なまでにすばやく丁寧に引き揚げていくさまは芸術的とさえ言えます。

これが伊坂氏なのですね…!


ほんとうに安心して読める作家さんです。


ばらまきすぎたかに思える伏線の回収力はほんとうに見事としか言いようがないです。

それでいて、精密なミステリものには欠けがちの人間そのものに対する視線と、人間が持つ独特のぬくもりみたいなものもちゃんと忘れてはいないのです。



盛りだくさんに詰め込まれ、それでいて軽快に駆け抜けるように読み切ることができます。

実に満足した一冊でした。



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◆「攻殻機動隊」の押井守氏の作品


映像系の方の本です。押井守氏著。



映像系の筆とあって、アクションを期待してしまう気持ちは否めなかったのですが、そういったものはほぼ皆無です。

無色透明とは程遠いどぎつさ。

黒と赤にべっとりと血塗られた、不快感すら覚える印象です。



小説と呼ぶべきか惑うほどのぎっしり詰め込まれた文字情報からは、硬質で頑固でオタクなインテリの臭いがプンプンします。



◆「知的挑発」という表現に納得



語るべき内容部分としては興味深いのですが、いわゆる「無知を見下したスタンスからブツブツと自分の知識を壮大に語る」オタクの性質そのままの物語で、どこまで読んでもいっこうに盛り上がってこず、読了までの道のりは正直キツかったです。


作者の挑発的とさえ思える延々と攻撃的な講釈は、仮に押井氏が好きな人でもイラッとするんじゃないでしょうか。



ただこれ、意図して書いているとしたらすごいです。大変なことです。

この本を紹介する文章をどこかで読んだのですが「知的挑発」という言葉が使われていました。

なるほどすごくしっくり来ます。だとしたら作者は意図して新しい何かをやろうとしたのかもしれません。


でも、もう一回読めと言われたら…結構キツいです。



◆世界観は面白い


設定自体は奇想天外とまでは言いませんが、しっかり工夫もされています。
ただ、物語の展開の仕方があえて動きが少ないというか精神世界のほうへばかり行ってしまうため、いわゆる本を読んだ時に感じられる「脳内で映像化される感じ」があまり得られません。


とにかくぎゅうぎゅうに詰め込まれた言語情報があとからあとから怒涛のように押し寄せてくる、感じで、読み手側の処理速度が追いつかないというのはあるのかも。
逆に言えば処理速度が追いつく方にとっては、濃密で読み応えのある作品、なのかもしれません。


言わんとする、描きたい、世界の感じとか、作者の感性とかはどちらかと言うと好きな方です。
面白いとも思えます。
ただそれを文字で与えられるのは、受け手側のキャパによっては苦痛になりえます。


仮に「実際に会ってこの本の中に書かれていることについてディスカッションをする」ことを想定してみると

「すごく面白いけどすごく疲れる。もうちょっとなんとかなるよね?」

という感想をわたしなら持ちます。つまりそれがそのまま、この本を読んだ感想と言えますね。


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