乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

2018年08月




◆第5回(2008年) 本屋大賞受賞


本屋大賞受賞作、伊坂幸太郎著。


実にすばらしかった。手放しで絶賛です。プロの作家はすごいですね!

その筆にはお金を払ってもいいと思わせるだけのたしかな技術力があります。


わけてもこの「ゴールデンスランバー」は荒唐無稽で無理のありすぎる話の展開に、卑屈になるでも強引に押し切るでもなく自然と読者を巻き込んでいく包容力があります。


硬質な印象の筆と、乱暴なまでに思えるストーリー展開に、丁寧に作り込まれた真実を織り交ぜることでみごとな世界のバランスを築き上げています。



◆展開は無茶なのに、なんかやたらリアリティ



話自体はかなりムチャクチャです。

想像力を目いっぱい働かせても追いつかないくらい、どこまでもファンタジーな設定。

それなのに、伊坂氏の筆にかかるとなぜこんなにリアルさが増すのでしょう?


まるで「実録!凶悪犯に仕立てられた男の逃亡の日々!」を参考にして書かれたノンフィクション作品のようにさえ感じられてしまいます(注:そんな本ありません)。



「筋書きに無理があっても作者の筆力で引っ張って行ってくれる」作品の代表作みたいです。

ページをめくる手が止まりませんでした。



◆伏線づくし。どこまで仕掛けるの!?



雛形が出来ていて、まさに文字通り縦横無尽に張り巡らした伏線を見事なまでにすばやく丁寧に引き揚げていくさまは芸術的とさえ言えます。

これが伊坂氏なのですね…!


ほんとうに安心して読める作家さんです。


ばらまきすぎたかに思える伏線の回収力はほんとうに見事としか言いようがないです。

それでいて、精密なミステリものには欠けがちの人間そのものに対する視線と、人間が持つ独特のぬくもりみたいなものもちゃんと忘れてはいないのです。



盛りだくさんに詰め込まれ、それでいて軽快に駆け抜けるように読み切ることができます。

実に満足した一冊でした。



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◆「攻殻機動隊」の押井守氏の作品


映像系の方の本です。押井守氏著。



映像系の筆とあって、アクションを期待してしまう気持ちは否めなかったのですが、そういったものはほぼ皆無です。

無色透明とは程遠いどぎつさ。

黒と赤にべっとりと血塗られた、不快感すら覚える印象です。



小説と呼ぶべきか惑うほどのぎっしり詰め込まれた文字情報からは、硬質で頑固でオタクなインテリの臭いがプンプンします。



◆「知的挑発」という表現に納得



語るべき内容部分としては興味深いのですが、いわゆる「無知を見下したスタンスからブツブツと自分の知識を壮大に語る」オタクの性質そのままの物語で、どこまで読んでもいっこうに盛り上がってこず、読了までの道のりは正直キツかったです。


作者の挑発的とさえ思える延々と攻撃的な講釈は、仮に押井氏が好きな人でもイラッとするんじゃないでしょうか。



ただこれ、意図して書いているとしたらすごいです。大変なことです。

この本を紹介する文章をどこかで読んだのですが「知的挑発」という言葉が使われていました。

なるほどすごくしっくり来ます。だとしたら作者は意図して新しい何かをやろうとしたのかもしれません。


でも、もう一回読めと言われたら…結構キツいです。



◆世界観は面白い


設定自体は奇想天外とまでは言いませんが、しっかり工夫もされています。
ただ、物語の展開の仕方があえて動きが少ないというか精神世界のほうへばかり行ってしまうため、いわゆる本を読んだ時に感じられる「脳内で映像化される感じ」があまり得られません。


とにかくぎゅうぎゅうに詰め込まれた言語情報があとからあとから怒涛のように押し寄せてくる、感じで、読み手側の処理速度が追いつかないというのはあるのかも。
逆に言えば処理速度が追いつく方にとっては、濃密で読み応えのある作品、なのかもしれません。


言わんとする、描きたい、世界の感じとか、作者の感性とかはどちらかと言うと好きな方です。
面白いとも思えます。
ただそれを文字で与えられるのは、受け手側のキャパによっては苦痛になりえます。


仮に「実際に会ってこの本の中に書かれていることについてディスカッションをする」ことを想定してみると

「すごく面白いけどすごく疲れる。もうちょっとなんとかなるよね?」

という感想をわたしなら持ちます。つまりそれがそのまま、この本を読んだ感想と言えますね。


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ラヴレター
岩井 俊二
角川書店
1995-03



◆透明な色彩の岩井ワールド


映像作家として有名な岩井俊二氏の著

肩書にふさわしい透明な色彩の恋物語です。



正直変哲のない恋愛ものはあまり得意ではありません。

ですので、少し辛口の感想になります。

誉める意味合いではなく、失礼ながら少女向けの小説を読んだような感触。

好みの人は好みなのかもしれないが、個人的には映像でも見たいとも思えません。



◆甘酸っぱい青春時代をそのまま


映画では中山美穂さんが一人二役で主人公を演じています。見たことはありません、すみません。

小説では細かい心情が描かれています。

思春期独特の、どこか定まらないふわふわとした恋心。


ああもう、甘酸っぱい!

そういう青春時代の不安定だからこそ楽しい、みたいな感情を苦手でない人にとっては、おそらくどっぷりと浸かれる良質な本です。


それはもう、個人的に苦手ってだけの話ですので。


◆美しいことは美しい


苦手であっても、その美しさは評価できます。
恋愛ものが好き、だけでなく、誰しも心のどこかにひっそりと隠し持っている若かりし日の甘酸っぱさやほろ苦さ、みたいなものの扉を叩いてくれる感じはあります。

わたしのように苦手な人の心の扉にまで手が届く、という意味では、岩井氏はものすごくすぐれた書き手さんなのだ、とも言うことが出来そうです。

またさらに年月が経ったら読み直してみたいです。
そのときはまた、印象が変わるかもしれません。


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