乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

ミステリー・サスペンス



 

◆四季を通して


1年を通して雛形となる形を備えた連作ミステリー。

この人の文章は以前どっかで短編を読んだきりだったのだけど、思ったよりスマートでした。

表現もところどころグッとくるものもあって、もっといろいろ読んでみたい気持ちにさせられます。

 


春夏秋冬の四話それぞれの冒頭にはお約束の雛形があり、タイトルもそれぞれ登場人物にも係ったシャレた造りになっています。

個性的でコミカルな登場人物も、どぎつすぎない設定と描写も魅力的です。



◆事件が悲劇的すぎないからふざけた推理も冴えわたる



ここで起きる「事件」は、連続殺人みたいな派手なものではありません。

ちょっとした人間同士のズレから起きるささやかな事件がその主。

ともすれば退屈に陥る危険性のある「舞台」で、じょうずに読者の手を引いてくれます。


カササギ氏のズレた推理と、そこへ修正する主人公の黒子の努力が思わず読み手の「ニヤニヤ笑い」を誘います。



◆愛すべき若者たちの魅力満載



3人の主役級+1人の強烈な脇役という構図で話が進んでいくのですが、この3人の主役級はいずれも言ってみればイマドキの若者。

この彼らのなんと愛おしいことよ。


この本には昭和のホームドラマのような温度感があります。

ご都合主義のところやコミカルに過ぎる部分さえ、アハハと笑って許せる空気感。

それらもひっくるめると、この本はミステリーやサスペンスというカテゴライズには当たらないかもしれません。



全体を通して、べたつきのないサラッとした読後感です。

それぞれ1作ずつでも楽しめますが、4作にしっかり流れがあり、コンパクトにまとまっていて清涼感のある作品でした。

 

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◆第5回(2008年) 本屋大賞受賞


本屋大賞受賞作、伊坂幸太郎著。


実にすばらしかった。手放しで絶賛です。プロの作家はすごいですね!

その筆にはお金を払ってもいいと思わせるだけのたしかな技術力があります。


わけてもこの「ゴールデンスランバー」は荒唐無稽で無理のありすぎる話の展開に、卑屈になるでも強引に押し切るでもなく自然と読者を巻き込んでいく包容力があります。


硬質な印象の筆と、乱暴なまでに思えるストーリー展開に、丁寧に作り込まれた真実を織り交ぜることでみごとな世界のバランスを築き上げています。



◆展開は無茶なのに、なんかやたらリアリティ



話自体はかなりムチャクチャです。

想像力を目いっぱい働かせても追いつかないくらい、どこまでもファンタジーな設定。

それなのに、伊坂氏の筆にかかるとなぜこんなにリアルさが増すのでしょう?


まるで「実録!凶悪犯に仕立てられた男の逃亡の日々!」を参考にして書かれたノンフィクション作品のようにさえ感じられてしまいます(注:そんな本ありません)。



「筋書きに無理があっても作者の筆力で引っ張って行ってくれる」作品の代表作みたいです。

ページをめくる手が止まりませんでした。



◆伏線づくし。どこまで仕掛けるの!?



雛形が出来ていて、まさに文字通り縦横無尽に張り巡らした伏線を見事なまでにすばやく丁寧に引き揚げていくさまは芸術的とさえ言えます。

これが伊坂氏なのですね…!


ほんとうに安心して読める作家さんです。


ばらまきすぎたかに思える伏線の回収力はほんとうに見事としか言いようがないです。

それでいて、精密なミステリものには欠けがちの人間そのものに対する視線と、人間が持つ独特のぬくもりみたいなものもちゃんと忘れてはいないのです。



盛りだくさんに詰め込まれ、それでいて軽快に駆け抜けるように読み切ることができます。

実に満足した一冊でした。



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◆第4回(2005年) 『このミステリーがすごい!』大賞受賞



ドラマ化もされた海堂尊氏の大ヒット作。

ミスでべた褒めだったので、実は以前から読みたくて読みたくて、めちゃめちゃ期待してました。


…いやまあ、期待を大きく裏切らない程度にはしっかり読めたし面白かったですが。

正直ちょっと期待値大きすぎでした。期待はしすぎちゃいけませんね。



とはいえ、筆もしっかりしているし、何より病院モノ裁判モノはなんだかんだ言っておもしろく仕上がっていることが多く、舞台で一本です。


専門知識を有していないと描かれにくい場所を舞台に取ると、それだけでアドバンテージ感はありますね。


◆マジメな時ほど笑っちゃう、やつ



舞台も病院、終始シリアスな展開なのですが、登場人物たちの個性も手伝って、ところどころにコメディタッチな描写も散りばめられています。

そのために緊張しすぎずいいペースで読み切れる、というか。

とてもよいアクセントになっていました。


笑っちゃいけない真面目なシーンほど、人っておかしくなっちゃうものですよね。

そういう雰囲気があります。



それと、病院ものや裁判ものは、楽しく読みながら対象について学ぶことができるのでお得感満載です。

勉強!ってなるとなかなか頭に入りませんが、小説の中からだと気が付くと知識として自分の物になっていることもあり、これぞ読書の喜びのひとつだなと思います。



◆エッ、これがデビュー作!?



作品としてはもちろん面白かったですが、いわゆる名だたる小説家たちと比較してしまうと「少し物足りない」感じであったことは確かです。

でも、これがデビュー作と言われるとなるほどそれはすごい!今後どれだけ伸びるのか空恐ろしい!



このあとも継続的に書かれているので、読んでいきたいです。


漫画もそうですが、長期連載になると1巻の頃と最近の絵柄がまったく異なっていたりしますよね。
小説にも言えることだと思います。
そうして作者がどんどん「成長」していく過程を見られるのはとても幸せなことですね。


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