乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

現代小説

地下鉄に乗って (講談社文庫)
浅田 次郎
講談社
1999-12-01


◆第16回(1995年) 吉川英治文学新人賞受賞


浅田次郎氏らしい、丁寧に優しい文体で書かれたファンタジーとノスタルジーに溢れた1冊。


地下鉄駅の階段をあがると、そこはなぜか30年前。

タイムスリップものと呼んでいいのか、タイムスリップが「地下鉄に乗る」ことではなく、「駅から地上に出ることで」起こるところが、実際に地下鉄駅を使った時の独特な感覚につながって面白いです。


淡々と綴られる文章に、優しい涙がこぼれちゃいます。



◆ファンタジー+ノスタルジー



主人公が地下鉄駅からあがるたびに何度もタイムスリップしを繰り返しながら、どちらの時代にも上手に溶け込み、けして仲がいいとは言えない知らなかった父の過去をはじめ、30年前の時代の空気と熱に触れてさまざまなことを考えていきます。



読み手も主人公と一緒に、30年前の街並みに溶け込むことができます。

レトロな雰囲気に、その頃を直接知らない世代でも懐かしさを感じます。



◆少し切ないラストは…



時代を行き来する感覚は面白いです。

この人は本当に筆の質が柔らかいというか、ふんわりした優しさとミント感というか渡る風に一抹の切なさが香る感じがほんとうに独特で、読後にもその余韻が残ります。

 

 

ただしこの作品のラストは、少しほろ苦いと言うか。

あんまり書くとネタバレになっちゃいますね。

ですので、読後の「爽快感」という意味ではあまりお勧めできません。



読み終わった後にすこしあたたかいけど苦しいものが、胸の中に残ります。


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◆得体の知れないタイトル「プリズンホテル」


人生で面白かった本10選をあげるとしたらコレ入って来ちゃいます。

それが浅田次郎の「プリズンホテル」、夏~春の全4巻。

 

 

自分では絶対に手に取らなかったと思います、この本。

浅田次郎は嫌いじゃなかったけど彼の著名な作品はほかにいくらでもありますし、得体の知れないタイトルと全4巻という長さで敬遠し続けただろうなと思います。

 

 

先年他界した父が入院していた頃、移動時間や待ち時間が増えた母が本を読むようになりまして。

リサイクルショップで件の本が1冊50円で売られていたのを購入したそうです。



読み終わった母が「けっこうおもしろかったよ」というので、それをもらって帰ってきました。

タイトルから内容はまったく想像できません。

四季で4冊に分かれていて、表紙のデザインは花札のそれ。いったいどんな本なのだろう。



食わず嫌いは損をするし、いっちょ読んでみるか、とまったく期待せずに読みだしました。

 


◆超ハマり、笑いが止まらない

 


それが、超ハマり。ぐいぐいどんどん。爆笑の嵐。

電車内での読むのマジ危険です。


こんなに夢中になって、笑って笑って笑い通しだった本は久しぶりでした。


ほろりとさせるさすがの手法やきらりと光る表現の秀逸さが、登場人物たちの必死でクソマジメな滑稽を通り越した様子をますます引き立てます。


ひたすら笑いが止まりません。

ギャグ漫画もコメディ映画もコントもバラエティもかなわない。笑いをこらえるのに必死。思い出しても笑っちゃう。

 

 

設定やら登場人物やらが前時代的で、暴力的で不器用でクソマジメに苦しんだり悩んだり。

序盤は古臭いアレコレが気になって特に女性は不快感を催す人もいるかもしれませんが、ぜひとも我慢して最後まで読んでみてほしいです。

読後の爽快感と、一抹の喪失感とが、実際に旅行へ行ったあとのそれに限りなく近いです。

読み終わってしまうのを心底残念に思った数少ない本でした。

 

 

好きすぎて面白すぎて読み返すのももったいない気持ちです。

あの世界にまた行きたいけど、行ったら帰ってくるとき寂しいしな、みたいな気持ち。



◆きっと人間が好きになる
 

 

個性の強い登場人物たちが違和感なく溶け込み、異常な舞台と異様な人々にもかかわらずそこには「どこにでもある人間の生活風景」と「どこにでもいる人間像」があります。

一生懸命で、それがために滑稽な彼らの姿は自分たちにすんなり重なるし、まさしく人間世界の縮図とも言える。

読めばきっといまよりも「人間が好きになる」こと請け合いです。

それは「どんな人間でも」って意味で。

 


まあでも、そんなしちめんどくさいことはさておき。

とにかく、笑えます。



浅田次郎はヒューマンドラマの代名詞みたいに感じていたけど、人間描写に長けているってことはそれだけ「なにがどんな感情を生み出すか」も理解しているってことで。

それはつまり、コメディを書かせても天下一品ってことになるんでしょうね。

 


これぞ彼の真骨頂、なんじゃないかと個人的には思います。

人生で是非読んでほしい本のひとつ、プリズンホテル。メチャクチャおススメです。

 

 

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舟を編む
三浦 しをん
光文社
2011-09-17



◆第9回(2012年)本屋大賞受賞



もう読み終わってからだいぶ経つんですが、書こう書こうと思ってるうちに今に至ってしまいました。

だいぶ話題になっていたので一度は読みたかった三浦しをんさんの「舟を編む」です。

 


 

 

おもしろかったです。

想像以上にライトめな読感で、すらっとさくっと読めました。

以下ざっくりした感想です。

 

 

◆編むもの=言葉の海を渡るための舟



最初は「漁師さんの話」かと思ってました。アホかわたし…


辞書作りに情熱をかける男たちのお話。

辞書を作るという限りなく地味で果てしない作業にスポットを当て、魅力的なキャラクターで話をじょうずに引っ張って行ってくれます。


もっと文学クサイものを想像していたのですが、全然ライトです。

軽快で楽しく勢いに乗って読めます。

キャラの立ち過ぎ感は否めませんが、文体とはぴったりくるので違和感はありません。

 

 

作り上げようと何年も何十年も取っ組み合う辞書の名前は「大辞林」や「広辞苑」のような「大渡海」。

なるほどだから「舟を編む」。

そして主人公はクソ真面目な馬締。

もうこの設定だけでご飯3杯イケます。技あり一本。

 


◆言葉の難しさ面白さを再認識


 

これを読んでいる間「辞書を作る」ことについてずいぶん考えていました。

本文中にも幾度となく出てきますが、簡単な言葉ほど説明するのが難しいですよね。


定番のものだと「右」をどうやって説明しますか?


「左」の反対?お箸を持つ方?北に向かって東側?南に向かって西側?


どれが正解とかではなく、伝えようとする側が「読む側がどう思うか」を常に想像しながら作り上げていくのって、ほんとに途方に暮れるくらい大変ですよね。

最高に面白い仕事だけど、最高に大変です。



自分の持ってる「言葉のイメージ」は必ずしも他人が持ってるそれとは一致しない、ってことと、それを擦り合わせる作業がどれほど大変か、ってことを改めて感じさせてくれる本でした。



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